今日は東工大のMOT特別セミナーに参加してきました。以前もセミナーを行った200~300人入れそうな講堂で8割くらいの入りでした。偶然、去年の俯瞰経営学で一緒のグループだったkm君と遭遇、一緒に講演を聞いてきました。彼は今、東工大で技術経営を学んでいます。
コマツと武田薬品からそれぞれ人を招いての講演だったのですが、共通してあったのは国内市場ではなくグローバル市場に注力する(極端な言い方をすれば小さい市場となった日本の優先度は低い)、という点です。それがセミナーのタイトルにある「グローバル競争に打ち勝つ」ための現実なのでしょう。
コマツ会長の話はなかなか面白かったです。ただ技術経営というよりは経営改革の話でした。
■コマツの好調
コマツは先日のエントリにも書きましたが、営業利益率15%を超える業績好調の企業です。新聞等では新興国での建設・鉱山機械の好調ということが言われており自分もそう書きましたが、地域別の売上比を見てみると米国25%、欧州22%、日本15%などときれいに分散されており、中国は9.8%とそこまで比重が高いわけではないようです。
■日本の土建業の非効率の功罪
日本の道路等の建設費は非常に高いがそれで産業(建機、ゼネコン)が儲かっているわけではない。建機はコマツを例にとれば売上で15%を占める日本は利益では7%程度しか貢献していない。ゼネコンもそんなに儲かっていない。つまり非効率性によってコストが吸い込まれているのだが、その非効率性がゆえに現在の日本の失業率がそこまで高くないという面もある、との見解もありました。
この業界の効率性を高めるということは土建産業で多くの失業者を生み出す、ということであり、その受け皿はどうするのか、というところまで考えて政治を行わなければならない、ということです。
■坂根社長の経営改革
今回は坂根会長が社長時代に行った経営改革の話でしたが、それは管理費(SG&A)の高さが競争力を阻害していたということの発見と、その改善による営業利益向上という面が大きかったようです。
実際赤字に転落した2000?年には22.5%程度あった販売管理費は現在では16.5%程度になり、これがそのまま営業利益率向上に効いている、というような感じです。
■開発マネジメント
技術経営がらみの話をいくつか。
・割り切り
「日本のユーザの特殊な要望や、量産化後の若干の機能改善を割り切る」という話がありました。どんな懇意の日本のユーザの要望であっても、それが特殊で全体として数台くらいしか売れないようであれば経営判断としてそれをやらない。
また開発者側として現状の製品に改善の余地があればやりたくなる(例えば他社製品とのスペック競争を意識して)。しかし少しの改善であってもそれに伴う(見直し等を含めた)工数は大幅な改善の時と変わらない。であれば量産化後では品質の安定に注力し、そのような改善事項は現在開発中の機種の改善に徹底的に取り込むようにする、という判断があるということです。
・手綱
他社とのスペック競争に全ての面で対応しない、ということはある意味研究開発側の意見を貫くことになることになります。(営業的にはすべての面で優位な製品で売りたいから改善圧力をかけてくるもので、それを押し返すわけだから)
しかし逆に研究開発の考えを擁護しすぎると唯我独尊(市場に耳を傾けない)となってしまうため、そうなる前に今度は営業側の意見がちゃんと通るようにサポートする、といったいわば手綱をうまく引いてやることが大事ということでした。
武田の話は日本の知財制度の話、リサーチツールの話、と概論的な話が多かったです。
グローバル競争の話については、製薬の世界では米国を押さえれば50%、欧州を押さえれば30%が取れる。日本は最後でいい、というような話がありました。これはもちろん市場規模(収益減)の面について言っているわけですが、知財に関わる話もあるようです。
ちょっと私は詳しくないのですが、製薬分野で言うと日本では治療法に纏わる特許が取れない事情があるようなのです。そのためiPS細胞のようにせっかく日本で生まれたいい技術があっても、それを用いた治療法といった応用分野ではすでに遅れているのではないか、という危惧があるようです。
技術進歩が早く、かつグローバルに経済が広がる現代では、市場についても提供する価値についてもプライオリティを決めて素早く対応していくことが何にも増して大切なのだと思います。