リチャード・S・ローゼンブルーム,ウィリアム・J・スペンサー(1998),日経BP社.
以前ざっと読んだこの本を読み直しました。
現場からの報告を踏まえて最後にあるべき姿まで提示している、という意味では中身の濃い本だと思います。あるべき姿に”どうやれば到達できるか”については他の本同様、記述はないのですが。
このセンセーショナルな題名のおかげでいちやく有名になり、題名を知ってるだけでまことしやかに「今時、中央研究所なんてやっていてはダメだ」という人も多いですが、原題は
「Engine of Innovation」。当然ですが、この題の方が内容と合っています。
研究所については、基礎から応用へシフトしている”事実”と、その原因や影響の考察はあるのですが、基礎をやらなくなることへの警鐘もしており、単に邦題だけで判断しては内容を取り違えます。自ら一次データに当たることが大切ですね。
※同じような話は最近の書籍「MBAが会社を滅ぼす」なんかでもあります。この本の原題は「Managers not MBAs」ですよ。
ちょっと長くなりますが以下概略。(章タイトルはつけなおしています)
はじめに
研究開発の形態は変わりつつある。1つの時代(研究重視)が終わりつつあると考えられるが次がどうなるかはまだ良く分かっていない。
・研究の目的は(1)科学・技術の創造、(2)商品化、であり、(1)はOKだったが(2)、つまり利益に結びついたかというと疑問がある。
・競争の激化等の理由で実際企業(政府も)は基礎研究をやめつつあるが、これに対し、「中央研究所はなくなる(エドワード・デイビッド)」という見方と、「研究が企業を再生する(ジョン・シーリー・ブラウン)」という見方がある。
第1部 制度面
第1章 企業における研究活動の発展史:略
第2章 産学連携
・大学は研究、企業は開発という分業は有意義。しかし発展のためには研究と開発の人間間に交流がなければいけない。
第3章 技術の外部連携
・研究開発コストの増加や技術の分散化によって、研究開発の外部化が進んでいる。
・社外での研究を利用するためには、(1)企業戦略と研究開発の優先順位の一体化、(2)社外成果を利用するための補完(研究)のための投資、が必要。
第2部 現場からの報告(4社)
第4章~第6章は、かつて研究面のリーダーだった3社からの報告。第7章はインテルからの報告。
第4章 ゼロックス
独立した存在で擁護されていた研究所が意思決定に介入して緊張をもたらした。試験的に市場に出してみることをせず、技術本位だった。技術と市場を結び付けられなかったという反省に基づき、企業戦略・業務面でも責任をもつ経営層に研究所を取り込んだ。目指すところは「市場(新・既存)において競争力を生み出す新技術」「売れる知的財産」「生産面でのプロセス改善」
第5章 IBM
IBMの成果、および良いと考えていること。
(1)研究部門と事業部門が共同で仕事をした(研究テーマの重要性が時代によって変わるから)
(2)研究者と顧客との共同プロジェクトが増えた
その他は、研究所自体で自分たちの費用を稼ぐ、という意識、製造部門との共同作業、社内ベンチャー
第6章 アルコア
・研究開発とは、経営者のビジョン・判断と外部からの圧力への対応の相互作用。単に圧力に屈しないために、経営者には技術の理解と強いリーダーシップが必要。
第7章 インテル
・(前身の)フェアチャイルドでは、受け取る側(生産部門)の技術水準が上がるほど、研究所からの技術移転が難しくなるように見えた(受け取った側が技術を殺す)。そのため研究所を持たない。
・問題の真の理解は避ける。(これはソリューションベースドでは?) 「最小情報原則」(解決に必要な情報が少ないほど良い)。直近の問題解決のみ自社で行う。R&D費の1/3をプロセス改善、2/3を製品開発に使う。基礎研究は他社の動向を注視する。
第3部 研究と技術革新概念の再構築(実例)
第8章 技術の実用化
・新製品開発のために市場の情報を導入する際の3つの障害。(1)コアコンピタンスの硬直性(決まった情報源からの情報しか信用しない)、(2)変化を嫌う既存市場(イノベーションのジレンマ)、(3)ユーザーは本来近視眼的
・現行市場への適応と新市場創造の両極端の間の、「共感的手法」が重要。ここにやるべきことはある。(別紙の図を参照)。
第9章 研究の役割の再検討
・チェーンリンクドモデルを拡張した「トータルプロセスモデル」。組織力と(技術だけでなく)市場の不確実性を取り込んだモデル。ラジカルな漸進主義。(既存軌道で改善ではなく、新たな軌道(ラジカル。斬新)を小出しでいろいろ試してみる、という意味)
・成果をあげるためにすべきこと。(1)ビジョンの策定と共有。(2)時間軸を、A読み取る能力、B対応する能力、(3)技術のプラットフォームの保有と活用